再雇用の初月、給与明細を開いた瞬間のことは、今でもはっきり覚えている。頭ではわかっていたはずなのに、実際の数字を見た瞬間、なんとも説明しにくい感覚が走った。動揺とも違う、でも平静ではいられない、あの感覚を正直に書いておこうと思う。
給与明細を開いた瞬間、手が止まった
4月から再雇用になって、最初の給与日のことだ。スマートフォンでいつも通り明細を開いた。画面を見た瞬間、少しの間、思考が止まった。
以前の給与と比べて、受け取り額がざっと半分近くになっていた。
制度の説明は事前に受けていた。再雇用になれば給与は大幅に下がる、そういうものだと。だから「わかっていた」つもりだった。でも、実際に自分の口座に入る金額が数字として目の前に出てきたとき、なんとも言えない重さがあった。
驚いたというより、動揺した、という感じだった。怒りでも焦りでもない。ただ、手が少しの間、止まった。何秒か画面を見つめたまま、次に何をすればいいかわからなかった。
「わかってたはずなのに」という気持ち
その日の夜、ひとりで考えていた。わかっていたのに、なぜこんなに揺れているのか。
制度として頭に入っていたことと、実際に自分の体で感じることは、まったく別のことだったのだと思う。「再雇用で給与は半分になる」という情報は持っていた。でもそれは、どこかで他人事のような距離感で存在していた。定年前の自分には、まだ少し先の話だった。
自分の明細に書かれた数字を見て初めて、それが「自分のこと」として腹の底に落ちてきた。
うまく言えないけれど、悔しいとか、会社への怒りとか、そういう感情じゃない。ただ、「あ、本当に変わったんだ」という、妙に静かな実感だった。知識として知っていたことが、初めてリアルになった瞬間というのか。そういう感覚だった。
まず固定費の洗い出しをした
動揺したまま何もしないのは性に合わないので、翌週から家計の見直しを始めた。感情の整理は後回しにして、まず動ける部分から動こうと思ったのだ。
最初に手をつけたのは固定費だ。毎月必ず出ていくお金のうち、見直せるものを全部リストアップした。通信費は、スマートフォンのプランを見直して月に数千円削った。保険は、子どもが独立しているのに昔のままの内容だったものが2本あって、1本は解約、もう1本は補償内容を変更した。サブスクリプションも確認してみると、ほとんど使っていないものが3つほどあって、全部解約した。
合計すると、月に1万5千円ほどの支出を減らすことができた。収入が減った分をすべて補えるわけではない。でも、「動いた」という事実が、少しだけ気持ちを落ち着かせてくれた。何もしないまま不安だけが増えていくより、ずっとよかったと思っている。
妻との会話が想像と違った
固定費の見直しが一段落したころ、妻に状況をちゃんと話した。それまでなんとなく避けていた話を、テーブルに出した感じだ。
正直なところ、少し構えていた。責められるかもしれない。心配させてしまうかもしれない。「もっと早く言ってよ」と怒られるかもしれない。そういうことを勝手に想像して、話すのが億劫になっていた。
でも、妻の反応は想像と全然違った。「そうなんだ、で、どうするの?」という感じで、意外なくらい冷静だった。「私もパートを続けるし、そんなに急に生活が変わるわけじゃないでしょ」と言われた。あっさりしているようで、その言葉がすごく楽だった。
自分だけで抱え込んで、ひとりで動揺していたことが、少し馬鹿らしくなったくらいだ。夫婦で話すというのは、解決策が出なくても、それだけで気持ちが軽くなるものなのだと、59歳になって改めて感じた。
給料が減っても「働き続ける意味」を考えた
収入が減ったとき、自分の中でひとつ問いが生まれた。「この給料で、なんで働いてるんだろう」と。
意地悪な問いに聞こえるかもしれないけど、悪い意味じゃない。お金だけが理由じゃないとしたら、自分はなんのために働いているのか、ちゃんと考えてみようと思ったのだ。
答えはすぐには出なかった。でも、考えているうちに気づいたことがある。朝、決まった時間に起きて、着替えて、会社に向かう。その「いつもの流れ」が、思ったより自分の生活を支えていたということだ。もし定年でそのまま仕事が終わっていたら、あの流れが丸ごと消えていた。それがどれだけ大きいことか、続けているからこそわかる。
社会とつながっている感覚も、正直大きい。職場の人たちと話したり、小さな仕事をひとつ終わらせたりする、その積み重ねが、毎日をちゃんとした形にしてくれている気がする。給料が半分になっても、働き続けることで守れるものがある。今はそう思っている。
今、59歳の私が思うこと
再雇用になって数ヶ月が経った。最初の動揺はとっくに落ち着いた。給与明細を見ても、もう手は止まらない。
変わったのは数字だけじゃない。自分のお金に対する感覚や、働く理由の捉え方も、少しずつ変わってきた。固定費を見直したことで、自分の家計の輪郭が前よりはっきり見えるようになった。妻と話したことで、ひとりで抱え込まなくていいとわかった。
再雇用は「終わり」じゃないと、今は思っている。会社員人生のひとつの形が変わっただけで、そこから何をするかは自分次第だ。給与明細の数字が変わったからといって、自分の価値が変わったわけじゃない。そんな当たり前のことを、動揺しながら、妻と話しながら、少しずつ確かめてきた。
正直、まだすべてが前向きなわけじゃない。ふと不安になる瞬間もある。でも、あの給与明細を開いた日から、自分なりに動いて、考えて、整理してきた。それだけで、今は十分だと思っている。
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